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【饂飩料理 郷屋敷】 女将 三野 暉子さん

古木を偲び、新しきに継承する讃岐のおもてなしの場を仕切る女将

 二百有余年の歴史ある与力屋敷をうどん・会席料理のお店にしたのは昭和57年。それまで暮らしていた住まいを「郷屋敷」にする提案を聞くと、同居していたご両親は喜んで家を明け渡してくれたそうだ。国の有形文化財でもある屋敷と見事な庭園は「賓客のもてなし」にもってこいの高級感があるが、瀬戸内の鮮魚を使った多彩な会席と共に気軽な地元食のうどんも扱うので、ストライクゾーンが広い。普段使いでうどんを食す方を始め、お遍路さんや観光客、ファミリー・グループでのお食事会や祝い事、会社の接待、外国の方のおもてなしにと、利用客の幅広い店である。 

 開店以来、「女将」を勤めて27年。日々開拓し、維持する苦労は並大抵でなかったと察するが、凛とした着物姿と所作・振る舞いは、それを微塵も表に出さない。
 「お客様には庭を見ながら、ゆったりと故郷に帰ったようにくつろぎ、食事を楽しんでいただきたい。そして、先祖が残してくれたこの屋敷や庭を、我々が大事に維持すること、庭の木、石、こけのひとつずつを丁寧に手入れすることは、お客様にも『古いものを大事にする』という気持ちを伝えると思うのです」。
 この気持ちを社員全員に理解してもらい「おもてなしの心」とすることを店の1つのコンセプトとしていると言う。屋敷と庭の手入れは、女将も含め、従業員ともどもで毎月、日を決めて開店前に行っている。
 「専門の方に頼めば簡単かもしれません。でも、自分たちで綺麗に維持することが、場を大事にする気持ちや携わる仕事への誇りを育てます」。
 座敷だけでなく、椅子とテーブル席の間もある。息子の三野克也社長の提案で、知人であるインテリアデザイナー森田恭道氏がその改装を手がけた。最初は、ここに椅子やテーブルだなんて、と思ったと言う。
 「でも、息子を素直に信頼し、任せました。すると、このお部屋が大好評。時代は変わっていきます。古いものを大事にしつつ、新しいものを取り入れることも大事ですね」。    
 社員には感謝、関心、感動を提唱する。この3つの心があれば、相手の立場を考えて振る舞える。野山の野草を生けてお客様を迎える喜びや瀬戸の豊かな食材に、社員の働きに、そして訪れるお客様に感謝の意を表す女将。「お料理、しつらえ、接客するものの心。『全て整ってのおもてなし』ができることが、日々の目標です」と締めくくった。


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