4月5日号
ひきこもりや発達障害のある人を、農作業を通して学校や社会への復帰へと導く。
そんな独自の支援を20年以上にわたり続けているのが、(一社)ポレポレ代表理事で「さぬきポレポレ農園」代表の松田 勝さんだ。
松田さんが活動を始めたのは2004年。教職を定年退職後、これまで培ってきたカウンセリングの知見を生かし、「社会に居場所を失った人たちの力になりたい」との思いからだった。
農園にはこれまで、北海道から九州まで全国各地から入所者が集まり、年齢は10代から50代までと幅広い。累計入所者数は210人に上り、そのうち200人が社会復帰を果たしている。今もなお、全国から入所希望の問い合わせが絶えない。
入所者の背景は実に多様だ。いわゆる若者だけでなく、医師や大学病院の教授、弁護士など、社会的に高い地位にあった人が門をたたくこともある。ストレス社会といわれる現代において、発達障害の特性と環境のミスマッチが、年齢や立場を問わず人を追い込んでいる現実がある。表面上は順調に見えても、内面では深い孤立を抱えているケースは少なくない。
ポレポレ農園での生活は、1年から2年が目安。その間、農作業と並行して丁寧なカウンセリングを重ね、自分の生き方や人生を見つめ直していく。
「人は本来、自分で成長する力を持っている。私の仕事は、そのための環境を整えること。人は誕生してから、さまざまな経験を通して成長する。しかし、発達障害のある人は、その過程のどこかが少し足りないだけ。自由で安心できる環境の中でやり直せば、必ず伸びていく」(松田代表)
不登校の子どものうち、約6割は発達障害があるとも言われている。行き場を失い、支援学級や特別支援学校へ進んだものの、そこでも適応できず不登校となり、そのまま社会から孤立してしまうケースは少なくない。結果として、当事者だけでなく家族も長年苦しむことになる。
▽高い社会復帰率
ポレポレ農園を巣立つ人たちは、力をつけ、自信に満ちた表情で次の一歩を踏み出していく。そのため、復帰後に再び会社を辞めてしまうケースはほとんどない。社会復帰率95%という数字が、その成果を物語っている。
「発達障害のある人は『異能』とも言える存在。能力が高いからこそ、就職先からも評価される」と、松田代表は強調する。
国内には約146万人のひきこもりがいると推計されているが、その多くが潜在的な労働力だ。「この力を社会に生かすことができれば、人手不足という課題は大きく改善するはずだ」と話す。
実際にその可能性を体現しているのが、㈱電工社エンジニアリング(高松市香南町 十河孝浩社長)。労働力不足に悩んでいた同社は、ポレポレ農園を巣立った小笠原健介さん(37歳)、大前和範さん(28歳)の2人を採用。いまや現場に欠かせない戦力となっている。
両親の勧めでポレポレ農園を選択した2人。
大前さんは、「以前はアルバイト以外は家にいることが多かった。農園での経験が社会に出るきっかけになった」と話す。小笠原さんも「仲間と悩みを語り合う中で、自分自身が楽になった」と振り返る。
松田さんに相談する日々が、自信を育んだ。
入社後、2人は国家資格を取得し、水道工事部門を担っている。
「自分で考えて仕事ができるようになりたい」と語る大前さん。「重機を使った工事にも挑戦できるよう、さらに技術を磨きたい」と意欲を見せる小笠原さん。
十河社長も「新たな分野に挑戦する中で、彼らにも力を発揮してほしい」と期待を寄せる。
▽広がる支援のかたち
近年は、松田さんの活動を支援する企業も増えてきた。その一社が、ドコモショップ運営などを手がける㈱タケダ(高松市 武田康裕社長)だ。同社は昨年5月1日、有料職業紹介事業の認可を取得、ポレポレ農園と人材を求める企業を結びつける役割を担っていく。
武田社長は「これまで就職先探しは松田さんのボランティアに頼る部分が大きかった。私たちが農園と企業の架け橋となり、企業にも運営費の一部を負担してもらう仕組みをつくりたい」と話す。
現在、ポレポレ農園は約2ヘクタールの農地で、年間およそ30品目の野菜や米を栽培している。土に触れ、汗を流し、自然のリズムの中で働く日々が、失いかけた自信と力を少しずつ取り戻させる。
発達障害を「弱さ」ではなく「可能性」として捉え、社会とつなぎ直す。これからもポレポレ農園は夢と希望を届け続ける。
その取り組みは、香川県の令和4年度ボランティア大賞を受賞するなど高く評価されている。静かな農地から生まれる再出発の物語は、いまも続いている。
(一社)ポレポレ(さぬき市寒川町神前3651-1)☎0879-43-0625
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