11月25日号
総合不動産管理の㈱穴吹ハウジングサービス(高松市 新宮章弘社長)が、新事業に挑戦する。
旧さぬき北幼稚園(さぬき市鴨庄)の跡地に開設したのは、魚の養殖と植物栽培を掛け合わせた、革新的な循環型農法「アクアポニックス」を用いた『あなぶきさぬき市鴨庄プラント』。高品質イチゴの水耕栽培とコチョウザメの陸上養殖という高付加価値の組み合わせ。地域の遊休資産を未来産業へ転換する取り組みで、新たな地方創生モデルとして期待される。
あなぶきグループ全体で、社会の課題解決による地域貢献を掲げており、その一環でもある。
11月28日に運営を担う新会社「㈱あなぶきアクアポニックス」を設立し、6次産業化を推進、持続可能な収益事業として育てていく。
思い出の場所が、未来への希望へ
新プラントは、かつて子どもたちの笑い声が響いた幼稚園の跡地。廃園後の活用方法が課題となっていた場所に、地域の理解と協力を得て、新しい施設が誕生した。
開所式典で穴吹ハウジングの新宮社長は「地域の思い出が詰まったこの施設が、地域の誇りとなり、未来への希望となることを願っている」とあいさつ。目指すのは、単なる生産施設ではない。地域に雇用を生み、障害者雇用にもつなげ、さらに学校と連携した教育プログラムへの活用も視野に入れる。「『地域に生かされ、生きる』という理念を、この場で実現する」という想いを込めた。
あなぶきグループ 穴吹忠嗣代表は「さぬき市では、津田の松原サービスエリアの上下線、じゃこ丸パーク津田の運営、グループではアルファ津田カントリークラブも経営しており、鴨庄プラントは市内4ヶ所目の事業所。
社会基盤づくり、地域の経済的発展や雇用、地域の商品づくりに貢献したい」と語った。
穴吹ハウジングの香西秀紀執行役員本部長は施設概要を説明し「本事業を推進するのは、障害者雇用の創出、廃校活用による地域連携・社会貢献、自給率の向上、SDGsの実現が狙い。地域とともに地域創生を実現していく」と意気込む。
池田県知事は「高松シンボルタワーに設置した『かがわDX Lab』では官民が連携し、デジタル化による地域課題の解決を図っている。現在15の課題を上げ、ワーキンググループを作り取り組んでいる。今回の鴨庄プラントは4つ目の事業。しっかりプラントが稼働するよう、県としてもサポートをしていきたい」、中村 修さぬき市副市長も「生産拠点にとどまらず、地域にとって学びと交流の場となることを期待している」と話した。
アクアポニックス型植物工場
アクアポニックスは、水耕栽培と陸上養殖を掛け合わせた循環型農法で、魚の排泄物をバクテリアが分解し、植物の栄養分へと変換。植物が養分を吸収した後の浄化された水が再び水槽に戻るため、排水はほとんど発生しない。水使用量は従来比9割削減という、環境負荷を抑えた農法として近年注目されている。
アクアポニックスは水産養殖のAquaculture、水耕栽培のHydroponicsからなる造語。1980年代、米国発祥とされ、近年世界で広がりを見せている
鴨庄プラントが技術面で連携するのは、新潟県長岡市に本社を置きアクアポニックス型植物工場を提案する㈱プラントフォーム(山本祐二CEO)。長岡市にあるプラント1号機は設置して7年経つが、一度も水換えをしたことがないという。今回のプラントでは、無農薬栽培でありながら、オーガニック認証を取得できる可能性がある点も大きな強みだ。
同社によると、アクアポニックス型植物工場としては今回のプラントが四国初だという。
生産品目に選んだのは、甘みと酸味のバランスが良い高品質イチゴ「よつぼし」と、高級食材キャビアの原料となるコチョウザメ。高付加価値と収益性の両立を狙う組み合わせで、将来の地域ブランド化も視野に入れる
イチゴの栽培はヤンマーグリーンシステム㈱のNSP栽培装置を採用している。
遊休不動産の活用への期待
プラントは自動管理システムを導入。生産効率を最大化し、安定供給を図る。イチゴは年明けに初収穫を迎え、月に約450パックを通年で出荷予定。夏季にも収穫できるため、供給量が落ちやすい時期の強みも生きる。苗数は最大で1600株。
販路は地域の飲食店、直売所など地域をメインに、地産地消とブランド化を進める。
コチョウザメは初年度800匹からスタートし、毎年800匹ずつ増やし、5年後には4000匹規模として、順次成魚を出荷する計画。
また、150枚の太陽光パネルで60kWの電力を創出し、将来的には蓄電池導入も検討する。パネルはセラフィム社の薄型軽量品を、国内初採用した。
CO2排出抑制と自立型エネルギー運用を目指し、SDGs11項目に資する「環境配慮型モデル」としての存在感も高める。
地方発の循環型農業モデル「アクアポニックスシステム」は、全国の遊休施設を変える可能性を秘める。全国で増え続ける廃校や空き家問題に対しても有効だ。小さな幼稚園跡地から始まった挑戦の将来に期待したい。
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